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【セミナー参加報告】ハイパフォーマンススポーツ・カンファレンス:特別セミナー



2024年3月4日に、ハイパフォーマンススポーツセンター主催の特別セミナーに参加してきました。


毎度世界中の著名な研究者などを招いて行われる本カンファレンス、「パフォーマンス最適化のためのトレーニング負荷管理」をテーマにした今回も大変豪華な会となりました。


負荷管理とは薬を管理するようで、きちんと使えば薬になるが、間違えると効かないか最悪の場合毒にもなる、そのように考えています。1日2錠の薬を1回8錠飲めばオーバードーズですし、2日に1回では効き目を感じられません。当然ですが。


そのため、医師や薬剤師の方々は、お薬を処方する際は、効果最大ー副作用最小の絶妙な服薬計画をセットにして提供するのが当たり前です。


一方で、トレーニングに関してはどうでしょう?時事刻々と変化する環境やスケジュールに合わせ、パフォーマンスが最大となりつつ怪我のリスクも最小限となる、このような最適なトレーニングプログラムはいったいどのようなものでしょうか?


そんな負荷管理に関連するトピックの専門家を世界中から集めたカンファレンス、想像しただけでも痺れます。


さて、それではいつも通りまとめていきたいと思います。



①『概要説明/ハイパフォーマンスアスリートのためのトレーニングジムでの測定評価』(HPSC JISSスポーツ科学・研究部 山下大地 先生)


最初はハイパフォーマンスセンター(HPSC)の山下先生によるご講演でした。

内容は本カンファレンスの概要とこれまでの流れをお話しいただき、その中でHPSCはどのようなことを行っているorいきたいのかについて述べられていました。


マンパワーや予算的にも、データを集めてそれに基づいて実践していくという形が実行しやすいイメージがあるHPSCですが、そういった組織でもコストとベネフィットを考えて行わねば、不必要なデータを集めてしまうために避けた方が良いとおっしゃっていて、世界中どこでも課題は変わらないのだなーと思いました。


一方で、visible monitoringとinvisible monitoringについて言及がされていました。visibleは目に見えるモニタリングで、尿比重を測定したりなどが当てはまります。一方で、invisibleは目に見えないモニタリングで、GPSをつけてサッカーをする事など、通常通り練習をするなかで、勝手にデータが蓄積されているようなものを言います。コストを減らすためにも、invisibleなモニタリングをうまく取り入れながらやっていきましょうよとお話されていて、確かに非常に重要な視点だなと感じました。


いや、確かに現場では試合中の走行距離や心拍計を用いたHRのモニタリングなど、現場ではすでに行われているのですが、その解釈の仕方や活かし方が未だ不十分なために、活かしきれてると言えるところは少ないかもしれません。それに、このinvisibleなデータは蓄積されていくのは良いのですが、その処理を行うのには大量のコストが発生します。


現場ではフィジカルコーチがヒーヒー言いながらGPSのデータを抽出、出力しているわけで、とても気軽な測定とは口が裂けても言えません。AIなどの進化で、これらの作業が楽になれば良いのですが、AIはブラックボックス問題もありますので、難しいところですね。



また、 Evidence-based training と対比する形で、以下の文献から引用したEvidence-informed trainingが紹介されていました。


お恥ずかしながら存じ上げなかったので、まずは他分野ですがEvidence-basedとEvidence-informedの違いを調べてみました。


以下は『エビデンスに基づく実践(EBP)からエビデンス情報に基づく実践(EIP)へ - ソーシャルワーク(社会福祉実践)と教育実践に通底する視点から 』(秋山薊二 国立教育政策研究所紀要 第140集 平成23年3月)より引用


EBPは当事者参加を必須とし、当事者の意向や好みなどが優先され、「個別性」「一回性」などを重視している。従って、当事者の主体性を尊重し、エビデンスを受け入れることばかりでなく、受け入れないことも想定している。受け入れない可能性はあるものの、科学的エビデンスを伝える義務があることから、最近EBPはEIP(Evidence-Informed Practice)<エビデンス情報に基づく実践>と語られるようになった。EIPはモダンとポスト・モダンの主張の中庸を行くが、ソーシャルワークにおいて「人か、環境か」ではなく「人と環境」となったと同様、「モダンかポスト・モダンか」ではなく「科学重視と人間尊重」に帰着するのではないだろうか。それこそが、EIPにほかならない。

モダンとポストモダンの時間軸を基に、エビデンスに対する考え方の変遷が記載されていましたが、要はエビデンスだけではなく、個人の経験や受け手側の意志を考慮した介入を行うことがEIPだそうです。


その上で、講義で使用されていた引用文献を見ると、EIPの6ステップが記載されていました。


トップアスリートへのトレーニング効果を証明する高い質の研究が難しい以上、いくつかはエビデンスに準拠しつつも、全ての判断をEvidence-bacedに出来ず、個人の経験が十分に反映されるものになると。その点を考慮すると、上記のようなEIPのスキーマになりますよねと紹介されていました。


個人的にはEvidence-bacedにも受け手の意向や提供者の技量や経験といったところは要素に含まれているため、要は呼称の問題なのかなと思いましたが…。エビデンスの質問題であったりなどを言及すると疑似科学とは何かなど、非常に難しいところまで行ってしまいそうなのでこれ以上の言及は避けます。あんまりEvidence-bacedという名称に引っ張られない方が良いよとのことなんでしょうか。


エビデンスが十分ではない負荷管理の分野ではありますが、HPSCではそのような観点からアスリートのサポートをしており、そのための知見となるのが今回のカンファレンスですと、最高の流れで締めくくられていました。



②『トレーニングとリカバリーによる暑熱環境下での運動パフォーマンスの最大化』(Texas Tech University 関口泰樹 先生)


暑熱対策は前回の東京オリンピックの際に非常に注目されていた分野ですね。自分がトレーナーとしてチームで活動する際も、スポーツセーフティの観点とパフォーマンスの観点から非常に重要だと感じてはいました。ただ、この暑熱順化は非常に難解でして、理論こそはそこまで複雑ではないもののその実践となると、多くの壁が存在します。本講演では、実際にチームのサポートも行っている関口先生のお話であるため、研究と現場のお話を楽しみにしていました。


その中で、アメリカの女子サッカーチームで東京に来る前にテキサスの暑熱環境下で合宿をして暑熱順化を狙っていたというのは、面白かったです。日本で暑くなる前の5月6月に暑熱環境下で合宿をするというサッカーチームはあまり聞かないので、その発想があっても良いなと思います。とはいえ、リーグ戦などで合宿は難しいですが。


となると、やはり人工的に暑熱環境を作って実施するHeat acclimationを実施できる環境を探したり、サウナや入浴なども多少効果的だとお話されていましたので、そういったものの組み合わせが現実的でしょうか。連戦でいち早くリカバリーしたいといった場合を除き、(安全な範囲で)練習後にあえてサウナや入浴で追い込むというのも、ありかなと思いました。しかも水風呂や外気浴はせずに。しんどいですが。


いきなりやってしまうと疲労の影響でパフォーマンスに影響がありますので、これも計画的にですね。他にも、暑熱順化が非暑熱下でのパフォーマンス向上や筋の適応などにも貢献するかもとのことで、うまく味方につけていきたいところです。


ただし、日本で真夏になってしまった場合、外での運動を行う競技だと、毎日が暑熱環境下でのトレーニングになりがちです。事前に暑熱順化しておくことはもちろんですが、真夏をしのぐにはまた別の対策方法を考えなくてはいけませんね。



③『パリ2024大会に向けたダブルピーキング』(University of the Basque Country, Inigo Mujika 先生)


世界的に非常に有名な研究者であるMujika先生。以前にも来日されてはいますが、相変わらず界隈が湧くようなお方です。


今回のテーマはダブルピーキングです。オリンピックを想定されていますが、オリンピックで最高のパフォーマンスを発揮することは競技者にとってはマストです。一方で、そのオリンピック以前にも、高いパフォーマンスを発揮しなくてはいけない場面(予選など)は必ず存在するため、そこにもピーキングを持ってこなくてはいけない。つまり、パフォーマンスの二峰性、2つのピーキングが必要になるのが必要で、そのための方法をお話しますと言った内容でした。


特段新しい発表という訳ではなく、基本的なテーパリングやピーキングに関するお話であありましたが、改めてその実践方法を伺えて非常に学びになりました。


パーフォーマンスを高めたい時期に向けて、徐々に量を減らして頻度と強度は維持する。これは基本ですね。どういったサイクルで回すのかは状況にもよりますが、サッカーで言えばシーズンが始まってしまえば、ほぼ毎週試合があって、夏には大会が入ってきてとなるので、フィットネスレベルの増加は基本的に難しく、維持できれば上々の結果と言えます。そんな状況を鑑みると、シーズン前にしっかりと高ボリュームを提供することは理にはかなっています。一方で、怪我のリスクも考えるとチーム始動後にいきなり高ボリューム、高インテンシティ、高頻度で行うのは危険です。


※始動前に多少は身体作っておけよという所はありますが。野球選手ではoff期間の自主トレが盛んですが、サッカー選手もハワイとは言わないので沖縄とかでいかがですか?その際はぜひお声掛けいただければと。


自分が良く接するサッカーではチームでの活動となるので、このあたりの強度と量と頻度によって出る負荷を、どのように計画していくのかについて、フィジカルコーチだけでなく、監督やコーチ、選手としっかりとした共通認識を持って取り組むことが重要ですね。



④『データからパフォーマンスへ:エリートサッカーにおけるトレーニングの適応をモニターするテクノロジーの活用』(Type 3.2 Performance, HIIT Science, Martin Buchheit先生)


HIITを学ぼうと思ったら避けては通れないHIIT ScienceのBuchheit先生も、先ほどのMujika先生同様にとても著名な方です。


さて、今回のテーマですが、負荷を管理する方法論について、まとめとその実践方法について紹介するといった内容でした。


昨今さまざまなツールが出ている、いや出過ぎている中で、どのように負荷を管理していけば良いのかは、個別で評価していては埒があきません。そこで、私はこんなフレームワークを活用してそれらのツールを採用し、こんな風に使っているよと道筋を紹介してくださいました。


フレームワークは「負荷↔︎負荷への適応」「代謝↔︎神経筋」の2軸4象限マトリクスを用いて測定したいものを明らかにしようというものです。これらはツールが重複することもあります。


その発表は非常に分かりやすく、想像してワクワクするような内容だったのですが、やはりトップレベルに向けた内容であるなと感じました。(HPSCが開催しているので当然と言えば当然ですが)


個人のレベルで言えば、オーラリングを用いた心拍の評価やウェルネスの評価はそこまでコストがかかりません。


一方で、例えばそれをチームで導入したり、GPSや乳酸値、フォースプレートを活用しようとすれば、それが出来る場所は日本だとほんの一握りと言えるのではないでしょうか?また、どれか1項目だけ持ってきても、なかなか活用となるとその効力には疑問が残ります。


そのため、先ほどのフレームワークを使って出来ることを工夫しながらやっていくのが大切だなと思います。


ちなみに、ACWRというワードが全く出てこなかった(気がする。英語の聞き取りが間違ってなければ多分。)のが気になりました。Buchheit先生と同じくスペインのバルセロナが行っているオンラインコースではACWRが紹介されていましたが、そのあたりの認識はどうなっているのか、気になりましたが結局質問できずでした。


ACWRに関しては、オンラインで配信されているImpellizzeri先生のご講演を楽しみにしておこうと思います。



さて、本カンファレンスのまとめは以上です。この負荷管理や暑熱対策など、お困りのチームや選手の方がいれば、一度ご相談ください。

また、アスリートを中心に施術やトレーニングも行っています。必要があれば各種専門家の方々にご紹介することもありますので、ご気軽にお問い合わせいただければと思います。

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