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GKのセービングを考察する。プレジャンプ編(導入)。

更新日:2022年8月12日

前回の記事ではセービングと言っても状況によっていくつかの種類があることを紹介し、セービングの動作を3つに分け、プレジャンプと0歩目の部分について見ていこう、というところで終わりました。

さて、今回はプレジャンプについて、詳しくみていきましょう。


◎プレジャンプは必要か?プレジャンプの基礎とメリット。

 プレジャンプに関しては時々SNSなどで議論?があるように思えます。その議論の内容は大雑把に「プレジャンプは必要か不要か」だと思います。私の結論から申し上げますと「プレジャンプは有利となることが多い。ただし注意点もある。」です。以下で詳しくみていきます。


 そもそも、プレジャンプはなぜ行うのでしょうか?もちろん大きな目的としては早く移動するということになりますので、プレジャンプにも早く移動できるための要素があるはずです。それを見ていきましょう。


 よくあるプレジャンプを推奨する理論として紹介されるのは「ストレッチ-ショートニングサイクル(SSC)を利用するため」だと思います。SSCの詳しい説明は省きますが、筋紡錘の反射メカニズム以外にもモーターユニットの動員の増加、弾性エネルギーの活用など、多くの要因が関わって発揮筋力の増加が起こります。このSSCを利用するために、プレジャンプを行い着地時の下肢にかかるエキセントリックな負荷を活用することで、0歩目のプッシュ動作の力積を大きくすることが期待できます。(余談ですが、SSCと伸張反射は異なります。)


 ただ、SSCの利用はよくある理論ですので、プレジャンプ否定派の方々もその点は知った上で、違った意見を持っていると思います。このままではプレジャンプ否定派の方々との議論は平行線ですので、他の理論が必要になりますね。


 そもそも、プレジャンプ否定派の方々が言及される理由として「プレジャンプしてる時間、反応の遅れが出てしまう」が多いかと思います。確かに、宙に浮いている時間は移動ができないので、プレジャンプによって反応が遅れるというのは直観的に間違っていないように思います。


 ただし、この意見は本当なのでしょうか?この意見に対する私の考えは「半分正しくて半分間違っていると思う」であります。以下にてその理由を述べていきます。


 1つ研究を見てみましょう。

 Uzuらの研究では、10人の大学生男子テニスプレーヤーを対象に、自分の身長の90%先(180cmであれば162㎝先)につけられたターゲットに早く到達するという課題が出されました。ターゲットは被検者が経っている両脇に設置され、どちらに進むかは光の信号で示されました。信号は2つ設置されており、被検者に信号が光るタイミングを知らせるために3秒おきに1回、合計3回点滅し、4回目にどちらか一方の信号が点灯し、その方向に反応するという方法です。タイミングが分かっている刺激に対して、プレジャンプを行う群と行わない群でそれぞれ計測が行われました(図4)。測定内容は到達時間のみではなく、足元のフォースプレートでプレジャンプのタイミングやピークフォース(PF)なども計測されています。

(図4:Uzoらの実験手続き)


結果は、プレジャンプを行った群において合計の到達時間、PF、PFに至るまでの時間などが有意に良い結果となりました。


 図5はこの傾向のイメージです。テニスプレーヤーを対象としているため、そのままGKに当てはめられるのかについては検討が必要にはなりますが、動作自体は非常に似ていますし、視覚刺激に反応して横方向になるべく早く移動するという課題も似ています。そのため、動作について語る上ではある程度参考にしても良いかと思います。

(図5:着地時間と到達時間の関係。Uzuらの研究を参考に筆者作成)


 この実験の重要なところは、進行方向を指示する視覚刺激が出るタイミングが分かっているということです。視覚刺激が出るタイミングが分かっていれば、今回の実験で行われたようにプレジャンプが可能です。こういった「タイミングは分かってはいるけど方向が分かっていない」といった特徴を”Know when, not where”と名付けてその状況を作り出しました。実際にサッカーにおいても、シュートモーションなどからおおよそのタイミングは予想できるかと思います。


 というわけで、この実験が示すようにプレジャンプがあったほうが速く移動できるため、セービングの際にはプレジャンプをしましょう!


 と、単純にはいかないんです。プレジャンプが移動時間に悪影響を及ぼすこともあります。さて、どういった状況でしょうか?


◎プレジャンプのデメリットを考える。


 プレジャンプが悪影響を及ぼすケースについて、それはプレジャンプの着地タイミングからわかります。ここで先ほどの図5を見てみましょう。このグラフから2つの問題点が浮かび上がってくるかと思います。


 1つ目。この研究ではプレジャンプの着地タイミングは、ほとんどが信号の点滅後でした。そして、接地タイミングと反応時間、目標物への到達時間はやや正の相関がみられます。つまり、視覚刺激が与えられてからなるべく早く接地したほうが反応時間と到達時間が早くなるということが言えます。言い換えれば、刺激が与えられてから設置するまでの時間が長くなってしまうと、到達時間が遅くなってしまいます。空中で移動ができない故ですね。


 2つ目。早く着地した方が到達時間も早い傾向にある一方で、逆に早く接地しても遅い到達時間となった被検者も存在します。これはつまり、早く着地した方が早く到達できる可能性がある一方で、早く着地しすぎることはかえって遅くなってしまうリスクはあると考えられます。

 反応可能な時間より早く着地してしまうと、ジャンプのエネルギーがSSCの活用どころか寧ろ負のエネルギーとして蓄えられてしまうのでしょうか。その理由はいくつか考えられますが、ここでは深めません。


 また、このグラフにはありませんが、信号が出されてからステップを開始する(力がフォースプレートに対して伝えられ始める)までの時間は、プレジャンプを入れない群の方がやや早くなりました。これらの結果はプレジャンプ不要派の意見を肯定する内容でありました。


ここまでをまとめると、次のようになります。


 信号が出てから動きだすまでの時間はプレジャンプをしない方が早いものの、身長の90%の距離までのトータルの移動時間で見たらプレジャンプをした方が早い。しかし、プレジャンプの着地のタイミングが遅ければその分遅くなる傾向がある。さらに、着地が早すぎても遅くなる可能性がある。


 「結局どっちなんだよ!!」とお思いの方もいらっしゃるとは思います。ここで、改めてじっくり見てみましょう。


◎プレジャンプの結論を考える


 結論を考えるうえで、まず考えなくてはいけないのは、プレジャンプが有利になるパターンと不利になるパターンについてです。


 今回の実験では視覚刺激が出されてから目標物に到達するまでの時間が計測されていました。その目標物は身長の90%先にあります。サッカーのゴールは横幅が7.32mなので、中心に立った場合、ポストまではそれぞれ約3.6mあることになります。身長が180㎝のGKを想定し、中心から横に寝転がった場合は腕の長さを考慮して、残り約1.3mです(図6)。

(図6:GKが横になった場合の大体の距離感)


 さて、思い出してください。シュートの分類として“近い-遠い/短い-長い”の2因子から4つに分類しました。GKがゴールの中心に立っていた場合、ポストすれすれの“遠い“シュートの場合でも、横に1.3mだけ移動して横向きになれば計算上はシュートストップが可能です。1.3mというのは身長1.8mのGKからすると約72%の距離感になります。実験では横に飛び込んではいないですが、実は横に移動しなくてはいけない距離は実験よりも短いですね。


実際ここまで単純に考えて良いかどうかは一旦置いておきましょう。


 この実験からでは「どの距離まではプレジャンプをしない方が早いのか?」ということは分かりません。ですが、PFとPFに到達するまでの時間が早かったという結果を考慮すると、以下のような結論に至りました。


ある程度の距離、横方向への移動(推進力)が必要な場合はプレジャンプをした方が良いと思います。移動が開始するまでの時間はプレジャンプをしない分遅れるかもしれませんが、横への移動成分がある程度求められる場合はプレジャンプでSSCの恩恵を受けたほうが有利だと思います。


 これは距離が遠くなれば必然的に重要となる動きだと思いますので、後に述べる不利になる場合を除いて原則はプレジャンプを用いることが有利なのではないかと考えています。


 では逆に、プレジャンプが不利になる場合を考えてみましょう。プレジャンプでやはり懸念となるのは移動開始までの時間ですよね。この問題を解決しようとしても、先述した通りプレジャンプ着地のタイミングが早すぎてはかえって遅くなるリスクがあります。Uzuらの研究では、『最もリスクが少なく移動時間が早くなる着地のタイミングは180msである』と述べられていました。そこで以下のように考えてみました。


近いシュートのように横方向への移動が少なく、短いシュートのように一刻の猶予もないと言った場合はプレジャンプが不利になると思います。状況で言うのであれば、1対1でのシュートなどでしょうか?ただ、基本的にシューターとGKの距離が近くなればなるほど、遠いシュートは少なくなるため必然的に近いシュートが多くなります。 これはGKのなるべく相手との距離を詰めるという基本スキルの目的ですね。近いシュートの場合は横に素早く移動する必要はそこまでありませんし、もし至近距離のシュートで到達時間が非常に短い場合は反応と言うよりも身体にぶつけると言ったニュアンスが強いかと思います。そうなると「プレジャンプでSSCを…」とかではなく、身体を大きく見せるためにどっしりと構える必要があるでしょう。


 ただ、これもいざプレジャンプは不要なのかと言われると、不要ともいえないと思っています。というのも、1対1のシチュエーションにおいて完全に横移動をせずにその場でシュートストップをするのであれば良いですが、実際の1対1の場面を見てみると、駆け引きであったり移動していたりと、状況が様々です。そうなった場合、多少でも移動成分が必要であるならば、力積を考えると小さなプレジャンプが有利になるかもしれないと考えることもできます。あくまで推測ですが。

 ちなみに、バドミントンの選手なんかはプレジャンプする時としない時がありますが、どうやって使い分けているのか気になりますね…。


 さて、ここまでプレジャンプのみに焦点を絞って詳しくみてきましたが、結論としてはケースバイケースであると言えます。多くの場合においてプレジャンプは有効と言えますが、有効ではないケースもあるし、方法によっては有効である状況でもかえって不利になってしまう可能性についても言及してきました。さらには、プレジャンプも大きなプレジャンプと小さなプレジャンプ(言葉の定義は不明です)などを検討すると、より一層プレジャンプの是非はケースバイケースであると言えます。


 これで一件落着!としたいところなんですが、実はまだまだ続きがあります。そもそも、この記事の題名が「プレジャンプ編(導入)」なので、お気づきの方もいらっしゃったかもしれませんね。はい、深掘り編も存在します。


早い着地で良い結果になる人と悪い結果になる人の違いは何でしょうか?

この実験とGKのセービングで決定的に違うところは何でしょうか?

実際のセービングのシチュエーションではどうなっているのでしょうか?


 さて、以降ではプレジャンプについてさらに深掘りしていきましょう。次回ではこの実験では見えない部分について、考察をしていきたいと思います。


と、いうところで本日は終わりです。


参考文献

1)平嶋裕輔、浅井武、深山知生、中山雅雄 (2018)、サッカーにおけるゴールキーパーのシュートストップ失敗確率を予測する回帰式の検証、体育学研究2018 年 63 巻 1 号 p. 315-325

2)Uzu, R., Shinya, M., and Oda, S. (2009) A split-step shortens the time to perform a choice reaction step-and-reach movement in a simulated tennis task. Journal of Sports Sciences, 27(12), 1233-1240.

3)Thomas Dos'Santos, Christopher Thomas, Paul Comfort, Paul A Jones (2018), The Role of the Penultimate Foot Contact During Change of Direction: Implications on Performance and Risk of Injury, May 2018, Strength and Conditioning Journal 41(1):1, DOI:10.1519/SSC.0000000000000395

4)Robert J. Kosinski, A Literature Review on Reaction Time. Clemson University, Last updated: September 2013, https://www.fon.hum.uva.nl/rob/Courses/InformationInSpeech/CDROM/Literature/LOTwinterschool2006/biae.clemson.edu/bpc/bp/Lab/110/reaction.htm

5)木村聡貴、バーチャルリアリティでスポーツ脳を理解し鍛える、会誌「情報処理」Vol.61 No.11 (Nov. 2020)「デジタルプラクティスコーナー」

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