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GKのセービングを考察する。その1

更新日:2022年8月12日

 セービングはGKにとって最重要なスキルの1つであることに加え、最もダイナミックで観客を魅了することのできる数少ない機会の1つであるとえます。

 その一方で、日本においてはGK専門の指導者が未だ少なく、多くのGKが専門的なトレーニングを積めずにいるのが現状です。また、研究の世界においてもGKを対象に行われた実験はそこまで多いとはいえず、科学的な知見を用いて専門的な指導を行うということが難しい状況にあります。かく言う私も、GKとして小学3年生くらいから大学3年生までプレーをしてきましたが、その中で専門的なトレーニングを継続的に受けたのは中学生に入ってからでした。


 今回の記事ではGKのセービングに関して、特に身体の使い方に焦点を当てて記事を書いています。ただ、書き始めてみると様々なシーンが想定できるセービングにおいて一律で「○○が良い」と言うことは非常に難しく、現在もなお悪戦苦闘しております。


 そのため、徐々に執筆していけたらと思います。今回はその1つ目です。

1-1:セービング動作に影響を与える要因


 さて、早速ですが、セービングの動作に関係する要因として、“時間“と”距離“の要素があると考えています。距離とは今自分がいる位置からボールが飛んできて、触れられるであろう位置までの距離です(図1)。一方、時間とは打たれてからGKにたどり着くまでの時間です(図2)。


(図1:セービングにける近い遠い)



(図2:セービングにける早い遅い。この図では、両者のシュートスピードは同じとし、GKに届くまでの時間を示したものです。決して距離を意味しているわけでは無いです。)


 主にセービングではこの2要素の組み合わせで、その後の動作が決まるはずです。以下に例を示します。


① 近い&長い:遠い位置からのフリーキックでGKの近くに打たれたシュート

② 近い&短い:コーナーキックで自分の目の前で合わせられるが、GKの近くに打たれたシュート

③ 遠い&長い:ペナルティーエリア角から対角のゴール角を狙って打たれたカーブシュート

④ 遠い&短い:ゴール前の混戦からこぼれ球をGKから遠い位置に打たれた強烈なシュート



 一般的に、セービングの難易度は遠ければ遠いほど、短ければ短いほど上がっていきます。そのため、遠い&短いシュートに関しては、ほぼ取ることは出来ないものとして話を進めていきます。もちろん、例外はありますが、身体能力のみでどうこう言える問題では無いかと思います。



 実際に2014年FIFAワールドカップの枠内シュートを分析してシュートストップの難易度のようなものを計測した研究でも、シュートの到達時間やシュートコースが難易度を増加させる要因として紹介されています。ちなみに、低い弾道か高い弾道か、というのも難易度と動作においては大きな要素ではあるんですが、それは後々紹介できたらと思います。


 他にも真正面からシュートを打たれた場合と、斜めからシュートを打たれた場合も難易度も動作も異なります。斜めから対角に巻いたようなシュート打たれた場合、進行方向が横ではなくやや斜め後ろになるためです。


 このように、セービングというプレーを1つ切り取っても、非常に細かく分類することができ、それぞれに必要となるスキルは当然少しずつ異なります。ですが、それではキリがないですし、少し異なると言ってもそこまで大幅に異なるというわけではありません。現に「正面からのシュートに対してはずば抜けてるけど、斜めからのシュートに対してはダメダメ」というのはあまり聞いたことがありません。



1-2:セービングを成功させる重要なポイントとは?


 GKがセービング成功させるのに重要なポイントは身体の質量中心(Center of mass, COM)を素早くかつ効率よくボールが飛んでくる場所まで移動させることです。COMを早く移動させるということは、GKのセービングにおいて考えてみると、いかに早く横に移動できるかということになるかと思います。ただ、COMの移動は横方向だけでなく縦方向の要素も含まれているので、単純に横に早ければ良いというわけでもないという点は補足しておきますが、セービングにおけるCOMの移動はやはり横方向が重要です。


 「なぜ早く移動しないといけないのか」というのは愚問ではありますが、移動に費やせる時間が少ないためです。先ほど紹介した2014年FIFAワールドカップでの枠内シュート587本を分析した研究でも、シュートの到達時間は平均0.83秒(±0.4)と報告されています。つまりは打たれてから1秒以内に到達するシュートがほとんどであり、そのシュートがゴールラインを通過する前に、十分COMをボールに近づけることができればシュートストップ可能と解釈できます。


 詳しい動作の内容に関しては、また説明しますが一先ずはCOMを素早く移動させることが大切であるということを覚えておいてください。



1-3:セービングの動作を観る

 セービング時における動作も3つに分けてみたいと思います。構えから動きだすまで、動き出してからダイブをする直前まで、ダイブの3つです(図3)。


(図3:セービングにおける動作の分解)


 研究ではセービングの種類も遠くに飛ぶFar Diving、中間のMiddle Diving、近いNear Divingの3つに分けられることが多いです。


◎初期における動作

 まずは構えから移動を開始するまでについて見ていきます。試合を想定してみると、完全に静止している状態から移動を開始するということはあまりないでしょう。実際には移動していたり、打たれる直前にはプレジャンプも行われているでしょう。そして、実際にシュートに対して動き出すとなった場合は、進行方向とは反対の足で蹴って横に進もうとする0歩目ともいえる動作が存在します。上記の通り、初動にはプレジャンプと0歩目があるとして、初動の動きを詳しく観察していきましょう。


と、いうところで本日は終わりです。



参考文献

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